四半世紀続くサービスの作り方 ~プロダクトアウトの時代だからこそ知りたい~

大庭 広巳(株式会社OBAS 代表取締役)

2014/10/29

なかなか実現しなかった国内旅行領域企画

リクルートでは、国内旅行よりも海外旅行のほうが先に立ち上がっていました。エイビーロードですね。私も入社当初、その部署にいていわゆるタイアップ広告の企画等を担当していました。一方で、社内では国内旅行事業の提案がなされても実現しない状況が続いていました。社員としても、会社としても、なんとかして事業化したい。でもなかなか実現されない。 

-海外旅行のほうが先だったんですね。なぜ国内旅行の事業化は厳しかったのでしょうか?

国内旅行は、単価が安いんですよね。海外旅行だと当時は数十万していました。国内の宿だとこれが1、2万。パッケージツアーでも3、4万。海外旅行情報誌のエイビーロード内で、トライアルとして国内旅行の特集も作っていたのですが反応はサッパリよくない。さあビジネス的にはどうなんだ、という話になる。でも、事業部としては国内旅行の分野は形にしたかった。そこに僕がアサインされた形になりますね。エイビーロードの誌面での実験では、なかなか見えてこなかった国内旅行の分野。成功するかどうかはちょっと半信半疑でした。しかも個人的にそこまで国内旅行という分野に特別な思い入れはありませんでした。いま思えばそれがよかったのかもしれないですね。『国内旅行』という分野に対して、比較的ドライに、客観的な立場に徹することができました。

こうやってできた国内旅行情報媒体じゃらんの創刊準備室のメンバーは私含めて4名。私がリーダーを務めました。まず最初に行ったのは1ヶ月半に渡るユーザーインタビュー。毎日毎日、様々なユーザーを集め、徹底的なヒアリングを行います。リクルートに入社する前に新卒で入った会社が、企業のCI(コーポレートアイデンティティ)戦略を設計するところだったのですが、そこではCIの設計を始める前に、徹底的にステークホルダーにヒアリングをかけるんです。完全にユーザーありきのところから組み立てていきます。ニーズをこれでもかってくらい徹底的に洗い出して、企画を詰めていく。これを叩きこまれました。じゃらん立ち上げの際にもそれをじっくりやりました。

実は国内旅行に行っていた日本の若者

じゃらんの創刊準備を進めていた1989年、ちょうどバブル全盛期の頃なんですけど、当時日本の若者は海外旅行全盛で“国内旅行は行かない”と言われていたんですね。この定説をまず検証しなきゃなと。それで定量評価してみると、確かに若者は“国内旅行は行かない”って結果が出てくるんですよ。困ったことに、なのですが確かに世の中で言われている通りです。でもユーザーインタビューを進めていくと、ひとつ面白いことが分かりました。実は友達とスキーに行ったり、デートでドライブ行ってそのまま泊まったりとか、普通に「国内旅行」をしているんですよね。行かないと言っていた人の7割くらいが実は無自覚に旅行していた。つまりは「旅行」というキーワードがダメだったんです。この言葉だとユーザーに届きづらい。けどニーズはある。というか実際にやってますよね。そこで、遊びとか余暇活動といった表現で考えることにしました。余暇と言っても映画などとは異なるので、宿泊をともなう移動余暇活動、なんて呼んでいましたけどね。今でいう事業ドメインを決めたわけです。

-ユーザー自身も「旅行」と認識していなかったわけですね

もうひとつ面白いことがあって、それまで旅行系の情報ってエリア別に並んでいたんですよね。これがサッパリ反応が薄い。そこで「一万円以下」などのテーマ切りにしてみたんです。そうするとはっきりと反応が返ってくるんですね。この結果の元に、仮説検証のユーザーインタビューを行いました。これもよくよく掘り下げて聞いてみると、あまりエリアへのモチベーションってなかったんですよね。今だと少し変わってきているかもしれないけど、「この場所へ行きたい」よりも先に「誰と何をしたい」のほうが先にくる。エリアが決まるのは、何をするかが決まった後だったんですね。

主張し続けた「メディア性」

その後もユーザーニーズを元にブラッシュアップを続け1990年に創刊しました。ここでちょっとリクルートならではのビジネスモデルにぶち当たるんですね。基本的にそれまでのリクルートの情報誌って、求人にせよ不動産にせよ、掲載される情報は営業が取ってきた広告案件なんです。でも旅行という領域はある種のエンターテイメント性が必要だと考えていました。求人情報や物件情報と違って、パラパラ見ながらワクワクしたい。広告案件がズラリ並んでしまうだけだとマズイんですね。旅行の情報誌なのに、人気のスポットが載ってなかったらガッカリじゃないですか。広告として受注していないと載せれないなんてこちらの都合で、ユーザーから見るとただただ媒体のクオリティが下がるだけなんです。なので編集部おすすめの情報を載せる編集ページを作りました。他社の雑誌だと編集ページって全く珍しくなくて当たり前にあるものなのですが、リクルートではタブー。だって営業はAという旅館から広告取ってくるのに、編集は営業がお金を取ってこなくても人気のBという旅館を紹介する。Aからすると、なんでBは無料なんだ!って当然なります。当然、営業との細かい調整を日々ひたすら繰り返していました。

現場だけでなく、上層部を説得するのにも苦労しました。リクルートのサービスは基本的にはプラットフォーム側にいるんですね。なのでお金にならないページはイレギュラー扱いなんです。商品(広告)に関係のないノウハウ記事などは他媒体でもありましたが、直接商品に関わるを掲載してしまう編集というのは、いままでの当たり前を覆すわけですから上層部の説得も、現場以上に大変でした。これは戦いですね(笑)ただ、長期的に見るとそのお金にならないと言われているページってユーザーニーズと直結してますし、どう考えても絶対に媒体のためになりますし、会社のためになるんですよ。

ユーザーニーズを満たしていないものは「眠い」ものになる

近年、特にウェブサービスやアプリの領域だと、プロダクトアウトが増えてきましたね。ただ、揺るぎないニーズがないと作っても間違いなく長続きはしません。一瞬、ポッと出ては消えていく。「これ、あるといいんじゃないか」くらいで作っても本当に眠いものしかできないんですね。当たり前の話なんですけど、ユーザーが何を求めているか、これを知ることは本当に本当に大事なことなんです。新しいものを作るのであれば、なおさらそれが本当に求められているのかは十分に検証する必要がありますね。答えは必ずユーザーが知っています。

(編集後記)

じゃらんが創刊して約四半世紀、紙からウェブへの転換があったり、旅行業界自体も大きく変わっていく中、いまだにじゃらんは国内旅行情報媒体の中で大きな存在感を示しています。いかに事業立ち上げの際の「基礎」がしっかりしていたか。その基礎をどれだけ強固にできるかは、ユーザーニーズをどこまで掘り下げられるか、あとはそこから生まれてくる「これは間違いない」という信念の強さに依ってくるのではないでしょうか。

 

 

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