スタートアップ4.0が示す、これからの新規事業の作り方 ~65人の起業家コミュニティが新規事業の成功確率を上げる~

鈴木 規文(株式会社ゼロワンブースター 代表取締役)

2014/11/26

-現在、01Boosterでシェアオフィスの運営をはじめ、様々な形でスタートアップ企業の支援をされていますがそのルーツは何になりますか?

おそらくカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下CCC)にいた頃に形成されたと思います。新卒ではゼネコンに入り6年、そこから2社目がCCCだったのですが、最初は前職と同じ職種の経理にいました。ただ、当時のCCCはマザーズ上場の手前で急成長期。人の出入りが激しく、当然ながら社内もカオス状態なわけです。辞めていった人たちの仕事が次々と自分に回ってくる。それはそれでその時は大変なのですが、成長のチャンスでもあるんです。実際に、経理のいちスタッフだった僕も最終的にはコーポレート管理室長。いわゆる部長職で、管理部門の全体を見る立場になりました。

もちろん、これはこれで自分のキャリアをストレッチしてくれたのですが、もう一つ大きな影響を受けたのが、まわりに大勢いた経営のプロの方々ですね。僕も当時、社長の増田さんの鞄持ちのような感じでそばで働いていました。ものすごく刺激されましたね。更に彼のそばには経営のプロが大勢いた。自分の上司もそういった人だったので常に身近に経営があったわけですね。

素人の男3人、保育業界でのスタートアップ

その後はエムアウトという会社に行きます。ミスミグループ本社の元社長の田口弘さんが経営を他に譲られ、その後に作った会社になるのですが、ちょっと変わった会社でして。ズバリ言うと「事業を作る会社」。起業家を集めて事業を作って売り、キャピタルゲインを得るというハンズオン型のベンチャーキャピタルに近い会社です。なので中身も実質的には企業内起業に近い感覚。そういった事業を作る人間もいれば、事業をヨソから買って育てる人もいました。

-実際にスタートアップがにいくつもいるような環境ですね。かなり有機的な組織ですね。

そうですね、田口さんがそもそもそういうマネジメントの方ですからね、トレード制度というのですが、自分の行き場所は自分で探す、という形です。まあそんな環境の中で手がけたのが「キッズベースキャンプ」という民間の学童保育事業です。けっこうこの業界はかなり硬直している業界で、未だに参入しては返り討ちに合うような業界なんですね。そういった業界に素人の男三人で立ち上げ2年半でバイアウトという状態までもっていくことができました。

-なかなかないスピードだと思うのですが、成功要因はあるのでしょうか?

この事業に関わらずなんですが、決定的な成功要因はないんです。複合的な要素が絡んでくると思うのですが、キッズベースキャンプにおいてはまずは素人がやったことが大きい。慣習や常識やしがらみにとらわれないことが、壁を突破する大きな引き金となった。あとは田口さんのファイナンスも大きいですね。施設運営なので初期費用や運営費がかかる。ウェブサービスとは違って、ここでの費用をいかに捻出するかが大事になってくる。そういう意味では十分なファイナンスを受けられたというのはこの事業では大きいですね。エムアウトに在籍している人材もかなり優秀で、名だたる企業の経営企画部門の人間が集まっているので、僕らがフォーカスしていた保育業界・教育業界を徹底的に分析して施策を練り上げているんです。そして今思えばリーンスタートアップの手法を取り入れていました。当時はまだそんな言葉なかったんですけど、サービスローンチ後も価格を変えたりしていましたね。

-その後はどうされていたんですか?

キッズベースキャンプは東急電鉄にバイアウトとなり、その後も3年ほど事業に携わっていました。その後はまた新しい事業を作りたい熱が上がってまいりまして。会社を辞め、グロービス経営大学院を通じて知り合った仲間とビジネスプランの叩き合いをよくやっていたんですね。ちょうどそのタイミングでみんなが次々と独立していった。ただ場所がないよねとなり、じゃあみんなで集まって家賃折半しますか、という流れで始まったのが01Boosterなんです。

01Booster発の事業が成功確率が高いワケ

起業家が集まり場の熱量が高まると、そこにまた人が集まってくる。いまでは01Boosterには65人の起業家が集まっています。そのコミュニティでは事業のアイデアがどんどん磨かれていきます。スタートアップに対して、大手企業から何か一緒にやりましょうと引き合いもあります。そこを01Boosterが触媒となりしっかりとコーディネートする。アイデアのブラッシュアップの場でもあり、大企業という大きなアセットとの接点としての機能も果たしています。このようなエコシステムが01Boosterの本質なんですね。シェアオフィスはその仕組みのひとつに過ぎないんです。

-スタートアップを成功させるために必要なものは

起業家の狂おしいばかりの執念は必要不可欠として、そこから先は決定的な要因はないのですが成功確率を上げる方法はあります。特に必要なのがネットワークやコミュニティですね。実は周りから受ける影響ってかけがえのないものなんですよ。相互メンタリングの状況が生まれると、軒並み成長確率が高くなる。成長もどんどんする。そんなわけで01ブースターで育った事業ってかなりの成功率が高めなんですね。意識的にそういう状況を作っています。逆に一人で悶々と考えると成功確率は一気に下がります。

大企業は新規事業を作れない?

-ではスケールを少し大きくして、既存の企業が新規事業を始める際のポイントはありますか?

ちょっと質問の前提を崩すことになるのですが、ハッキリ言ってしまうと、大企業は新規事業は非常に生みにくい構造になっています。もちろん、新規事業を作れるアセットはあると思うんですね。優秀な人材もいる。ただ、新規事業をやるということに対しての「意思決定」ができない。日本は「失われた20年」の間は必死に本業回帰をしていました。なのでいまの部長・課長クラスで新規事業を作った経験のある人材ってほとんど少ないんです。新しい事業を生むためには、何かしら既存事業とのコンフリクト(衝突)が生じます。例えば既存事業で活躍していた優秀な人材を新規事業に当て込むなど。そういったジャッジが今の大企業ではできない状態なんです。これは日本に限ったことではなく、アメリカも同様です。

-アメリカではどういう状況でしょうか?

アメリカでは新規事業は社外リソースを使って生み出す手法が主流になってきています。0から1を生むのは自社ではできないと割り切っている。例えばアメリカの大手アクセラレーターのテックスターズが仕掛けた事例なんかは象徴的ですね。ピクサーやルーカスフィルム、マーベル、ABCなど名だたるコンテンツメーカーを抱えるディズニーグループが、スタートアップ10社に対して15週間かけて最大12万ドルのファンディングを元に新規事業を生ませようと試みました。ポイントなのはマイノリティ出資ということ。マジョリティを起業家たちに残したままなので、彼らもやる気が出る。

結果、15週間の間、10社共に事業をローンチしています。いくらディズニーでも15週間で12万ドル使っても新規事業10個も作れないですよ。もちろん、この10個全てが成功するわけではない。でも2、3つは乗っていくでしょう。これを仕掛けているのがテックスターなんですね。実は01Boosterではこういったコーディネートに今後力を入れていくつもりです。日本はこれからですかね。まだまだ自社でやりたい、という会社さんが多いところが実情です。

スタートアップと大企業のいい関係

実はこの流れってうまくニーズが合致しているんですね。やりたいことはある、モノも作れる、でも資金がないスタートアップ。特にこれからはウェブ完結ではなくリアルも巻き込んだ事業が増えていくでしょう。当然コストがかかる。一方で膨大なアセットを抱えつつも新規事業が生み出せない大企業。ここがお互い持っているものを持ち寄って、新しい価値を作っていく流れは、まさにスコット・アンソニーが語っているスタートアップ4.0そのものです。そこには間をきちんとつなぐ「コーディネート」を受け持つ存在も必要です。0→1を作るスタートアップと1→100を作る既存企業、そしてその間をアジャストする触媒としての存在、この流れが回るようになってくると次々と新しい価値ある事業が生まれてくると思います。

(編集後記)

スタートアップも既存企業も、新規事業を生み出すために「外部をいかに活かすか」という要素が大切になってくると感じました。スタートアップは周囲のコミュニティを、既存企業は新規事業を生み出すスタートアップを、今後はこの関わり方が新規事業の成功確率に大きく関わってくるようになるでしょう。また、ウェブ完結→リアルを絡めたサービスという流れにおいても、既存企業とどう関わっていくか、いままで以上に重要なポイントになってきそうです。

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