IPOのプロが語る、会社の成長を左右するキャッシュ論 ~勝負の時に、本当に勝負できるか?~

早川 智也(プロジェクト・オーシャン株式会社 代表取締役)

2015/01/14

-まずは早川さんの経歴を教えて頂けますか?

まずは新卒入社で大和証券SMBC(現在は大和証券株式会社に存続会社として吸収合併)に入りました。本当はベンチャーキャピタルに入りたいなと思っていたのですが、いまでこそよく聞く言葉になりましたが、同時は全くメジャーではなくマニアックな領域。東京ならまだしも大阪だったので新卒採用をやっているベンチャーキャピタルはなかったんですね。

なので、ベンチャーへの投資はできないけれど、IPO支援、株式引き受け業務などができる会社に入りました。入社当初は株式上場のコンサルティングの部隊にいました。はじめは大手企業を相手とした大きなプロジェクトのアシスタント。はじめに大きなスケールに携わらせて頂いたのは大きかったですね。その後は主にインターネットサービスを持つ企業を中心に担当させて頂きました。

-インターネットはもとから興味があったんですか?

そうですね。大学生の1年目にちょうどWindows95が出て、自分も興味があった。端末も買っていろいろ触っていました。そういう下地があって、ちょうどブログやソーシャルメディアが出始めていた時期、つまりweb2.0で沸いていた時期。インターネット黎明期から出てきた会社も徐々にIPOし始めた時期になります。オールアバウト、ドリコム、ミクシィなど、いろんなネット企業のIPOを手伝わせていただきました。

-その後、2006年に独立ですね。

会社に属していると自分が好きだからといって必ずしもやらせてもらえるわけではありません。ひと通り、IPOに関しては知見も実績もたまってきたので、これであれば独立してもやれるなと思っていました。自分がちゃんと好きな領域に携わり続けるために、という理由が強いですね。やっぱりインターネット業界にはずっと絡んでいきたかったですから。

独立したのが2006年。2005年〜2006年は約180社がIPOしました。ちょっとしたweb2.0バブルと言ってもいいかもしれません。ただ、この直後にライブドア事件、その数年後にリーマンショックが起きるので一気にIPOのニーズは下がります(笑)。環境は独立前と独立後では本当に激変しましたね。

ブティック系の投資銀行を目指して

ファイナンスの分野って景気が変わってもニーズは変わらないなと思うことがありまして。景気が悪くなり、IPOが激減すると、「会社を売りたい」というニーズが強くなってくるんですね。ここは在職中には携わったことがない分野だったのですが、M&Aを自身で勉強しながら手がけられるようになりました。

一方で、今ほど数も額も多くはないのですが、ベンチャーキャピタルからの資金調達の支援も行っていました。今も難しくないというわけではありませんが、当時はかなり難易度が高かった。そのあたりの資金調達のお手伝いもやり初めました。

-事業のポートフォリオが増えていきますね。

そうですね。2012年頃から景気がよくなってきてIPOも増えてきて、状況がまた変わってきました。いま出ているニーズは人手。経理の人員がいないとか、監査役がいないとか。はじめは相談を受けるタイミングでいろんな方を無償で紹介していました。ただ、ここまでニーズがあるのであればきちっとビジネスにしようということで、いまは人材紹介の免許も取ってファイナンス系の人材の紹介も始めています。

-企業がファイナンス系の人材や知見を得るにはどんな方法があるのでしょうか?

2つパターンはありますが、CFOという形で会社にジョインされる方がほとんどですね。コンサルティングという形で入るパターンもありますが、特にインターネット、モバイル系だと顕著にCFOという立場でのジョインが多いですね。そういった背景を考えると、いまではこの事業はほとんど競合がいません。

こういった形で様々なサポートを行っていますが、ブティック系の投資銀行になりたいと常々考えています。インターネット/モバイルに特化した財務アドバイザーであり、イグジットのプロである。シードからミドル、上場手前までフェイズごとにファイナンスに関する悩みって変わってくるので、そこをトータルでサポートできるようにしています。

-いままでのご経験をもとに、会社を成長していくにあたって必要な要素は何が大きいでしょうか?

まずは会社の経営者が、「会社を大きくしていく」という意志があるかどうかは非常に大きいですね。ここひとつで、会社全体の動き方が大きく変わります。その上で、ヒト・モノ・カネをどうやって集めていくのか。モノはインターネット系のサービスだといろいろ融通は効きやすい。ヒトはまだ集めるのは難しいかもしれませんが、カネの面では近年は調達もしやすくなってきており、難易度は低くなりました。

-この2年くらいで調達額も大きくなってきましたよね

目に見えるレベルで変わってきましたよね。独立系のベンチャーキャピタルを含めた投資側のがんばりによるところが大きく、西海岸に追いつけ追い越せ、の気概がかなり強いです。おかげで資金面ではリーマンショックの頃に比べるとぐっと調達しやすい状況になりました。

いまは次のフェイズにきていて、その資金を「どう使うか」という点にフォーカスが当てられるようになりました。調達も難易度はあるのですが、使い方はもっと難しい。生き金にするのか死に金にするのか、これはとてもむずかしいですね。

-お金の使い方に関してもアドバイスをされているのでしょうか?

使い道に関してはいろんな選択肢があり、そのまま会社の進む方向に影響してくるのでどこまで踏み込むかはケースバイケースですが、ここに使っちゃうとダメですよ、というところはアドバイスしています。ひとつはオフィス移転。次はテレビコマーシャルですね。いずれも会社拡大には必要な要素ではありますが「無駄遣い」になりがちでもあります。戦略的に使えているのであればよいですが、まわりがやっているからウチもやるという流れだと死に金になりがちだと感じています。

-注目されている分野はありますか?

すっかり定着してしまいましたが、いまでも「ソーシャルゲーム」は大きい分野だと思います。事業の爆発力がとにかくすごいです。いままで他に類を見ないくらい、会社の成長に一気に影響を与える事業が生まれています。

インターネットが世に登場してそこそこの時間が経ち、いまでは成熟の域に入ってきました。なのでどのベンチャー/スタートアップ企業もニッチを攻めがちなんですね。なのでなかなか事業的に大きくスケールするのが難しい。一方で、ソーシャルゲームのユーザーはニッチではありません。任天堂やソニーなどと真っ向勝負。なのであれほどの爆発力があったんですね。

-会社の経営者が常に意識すべきことは何でしょうか?

キャッシュの出入りを徹底的に管理することは何よりも大事です。環境がいいときに資金調達をしておく。エクイティという株だけじゃなくて、できれば銀行借入もしておく。与信が付きづらいのでエクエティに偏りすぎているのですが、これだけ金利が低い時代なので、銀行からの借り入れもしっかりと考えていく必要があります。また、これは副次的な効果もあって、銀行の担当者は財務のプロフェッショナルですから、もしかするとCFO候補としても考えられる可能性があります。その意味でもいろんな銀行とお付き合いを増やしていくことは大事なことかもしれません。

-スタートアップ/ベンチャーが成功する秘訣を教えて下さい

スタートアップ、これから起業しようとする人の場合は自分の思いが強すぎることがあります。自分が良いと思っているプロダクトを実際に作るのだけれども、ユーザーの目線に立てていなかったりするので前に進めないケースがあります。ミドル・レイターだと無駄遣いをいかに減らせるか。かなりディフェンスが弱い印象ですね。全員攻めているときに、ディフェンシブなCFOや管理部門のメンバーがいると、会社全体の安定感をぐっと引き出せると思いますね。

あとは何と言ってもキャッシュ。ポーカーに近い話で、いま手札が弱いときにじっと我慢できるか、いい手札が来たときに大きく賭けに出られるか。キャッシュは攻めにも守りにも使えます。このあたりでの選択の自由度を増やせるのが、キャッシュになると思います。事業を作ると、どうしてもその事業の最前線をことばかりを見がちですが、立場が上になればなるほど、経営者ならなおさら、いざというときにどういうカードが切れるのかの幅を広げるためのファイナンスが必要となってくるはずです。

(編集後記)

創業期からCFOのいるベンチャー/スタートアップは稀だ。しかし一方でCFOの携わるファイナンス・キャッシュという分野は、会社の方向性を決める大きなファクターだ。経営層の誰かが意識をし続けなければ、来るべきチャンスを活かしきれずに会社の前進を大幅に遅らせてしまう可能性も大きい。早川氏からの話は、改めて市場が資本で動いていること、また会社の成長に大きく関わってくることを認識させてくれる。

テクノロジー企業の強い味方、勝負の時に勝てるファイナンスを!

大手証券会社の新規株式公開(IPO)業務を行う部署を経て、2006年にプロジェクト・オーシャン㈱を創業し、テクノロジー企業の新規株式公開(IPO)、M&A、コーポレートファイナンスといった財務戦略のアドバイザリー業務を行っております。

この記事に関するお問い合わせ、プロ紹介に関するご要望は「プロクル運営事務局」まで。