携わった数は1500超!新規事業のプロから見た新規事業を作れない企業がハマる3つの落とし穴

石川 明(石川明事務所 新規事業インキュベータ)

2015/03/04

-まずはいままでのご経歴を教えて下さい。

いまは主に企業の新規事業のアドバイザーをやっていますが、新卒で入ったのはリクルートです。リクルートリサーチというリクルートグループのシンクタンクのような会社に配属されました。人気企業ランキングや、土地の値段がどうなってきているのかなど、自社の媒体に関わる調査や一般企業からの調査を受託していた会社です。

いまでこそネットでいろんなアンケートが取れますが、1988年当時はFAXが最先端。郵送での調査だと一ヶ月くらいかかるところを、一週間で調査が終わる。調査期間のスパンが短いので、郵送だとそのスピード感から年間10本ほどの案件にしか携われないのですが、僕の場合だと年間100本。新しい商品開発の材料にしたり、実際に発売した商品の改善点をあぶりだしたり。この積み重ねが自分のキャリアアップとしては大きかった。

-具体的に言うとどういったところになりますか?

この期間に得られたことはいまの自分に大きく影響しています。特にロジカルシンキングとユーザー目線と自身のモチベーションです。調査は手法やスピードも大事なのですが、設問項目がキモなんですね。かなりロジカルに考えて設計していかないと、求めていた情報ってきちんと得られないんですよ。

そしてもうひとつ大事なのがユーザー目線。調査はユーザーの声を集める仕事です。ユーザーの声をしっかりつかめている状態ってとっても強いなと。もちろん、各分野の知識は各企業さんのほうが圧倒的に詳しい。だけど、僕らの立場だと「事実としてお客様からはこういう声が届いてまして」と、お客さんの側に立つことができたんですね。

マーケティングの最前線にいらっしゃる企業さんと調査のお仕事をさせてもらったのは大きな経験になりました。あとは、商品・サービスなどを作っている方々のチャレンジ・熱意にかなり近い距離で触れられたのもいまの「応援したい!」という仕事の姿勢に生きています。一方でけっこうジレンマもありました。ユーザー調査を行った上で「もっとこうしたほうがよいのでは?」と僕らが考えに至ったとしても、そう実行されるかどうかは企業さん次第なんですね。「もっとこうやればよいのに……」という思いは正直ありました。

そんな思いもあって次に異動したのが、リクルート社の新規事業開発室です。当時のメンバーは7人くらい。チームのミッションは大きく2つで、自分たちで考えて作るというのものと、事業を立ち上げたいと思っている社員の支援。New RINGという社員からの提案制度もこの部署の管轄でした。年間100件〜200件ほどの案件が提案されるんですね。この取り組みから「ゼクシィ」や「ホットペッパー」、「ダ・ヴィンチ」、「R25」といったサービスが生まれてきました。いままでのキャリアで累計1500件の新規事業に触れてきていますが、New RINGの事務局長を務めたことで、この期間だけでおよそ1000件の事業企画書に目を通していますね。

そしてその後は2000年にリクルートが米国企業と合弁で会社設立したオールアバウトに創業メンバーとして参加しました。それまでは、事業を立ち上げるところばかりに従事していましたが、立ち上げた事業を実際に運用していくところまで携わっていく機会を得たわけです。ビジネスサイドの責任者として広告商品の開発などを行っていましたが、なかなか大変でした。当時は未だネット黎明期。広告主もインターネットをどう活用して良いか、試行錯誤をしていた時代でした。オールアバウトがチャレンジしようとしていたのは、当時一般的だったバナー広告よりも遥かに定着していなかった編集型広告。今でいうネイティブアドです。ユーザーに対して、クライアントの商材をいかに分かりやすく伝えるかを考えて設計したのですが、まわりからは上手くいきっこないと散々言われました(笑)。

-オールアバウトでの活躍後、独立されて新規事業のアドバイザーとして活躍されていますが、具体的にはどのようなことをされていますか?

大きく分けると3パターンあります。まずはオーソドックスに新規事業自体の立ち上げサポート。そして、新規事業を生み出す仕組み作り、最後に新規事業を生み出せる人材の育成です。それぞれ陥りがちなポイントを紹介してみましょう。

あれ!そういう意味の「斬新」でしたか……を起こさないために

組織でよく陥りがちな致命的なミスが、「新規事業」の定義が曖昧なこと。新規事業をやらなきゃいけないんだけど、「何をもって新規事業なのか」の定義が社内ではっきり浸透していない場合。これだと、求めていたような事業提案がなかなか出てこない。発注する際の指示書がうまく書けていないのに、仕上がってきたデザインに文句を付けるような状態に近いです。

-確かに「新規事業」の定義について話せる機会ってあまりないですね。

細かい表現に関しても同様。経営者から社員に「斬新なアイデアを出してほしい」といった指示があったときに、その「斬新」とはどういうことを意味するのか。このあたりをしっかり共通認識持っておかないといけないのですが、意外とここが抜けている会社が多いんです。半年後の社長プレゼンに向けて着々と準備を進めているのに、そういった前提の話は一度も話し合っていなかったり。プレゼンのタイミングで、「あれ?ちょっと想像と違ったものが上がってきたな……」ということになりがちです。

「国語」の勉強が足りない! 

-新規事業を組み立てる際に気をつけるべきことはありますか?

「事業とは“不”の解消である」とは僕の師匠のくらたまなぶさんの受け売りなんですが、僕もこのスタンスで、事業を組み立てるってことは“不”をいかにして解消するかを考えることだと思っています。そのときによく使うのが「国語・算数・理科・社会」。まずは「国語」。誰がどういう“不”を抱えているのか。ここをぐりぐり掘り下げていく。じゃあそれはどれくらいの人数がいるのか。「算数」の時間です。ここの数字如何で事業として取り組むに値するのかどうかをジャッジすることができます。

じゃあ、“不”はどういう理由で生じているのか、ここが「理科」ですね。「不」が生じている理由には、理屈以外に何等か社会的背景があって生じている場合が多い。法律とか、市場構造とか、昔からの慣習とかってところが「社会」ですね。「不」がどういうものなのかがわかったら、あとは「図画・工作・家庭科・美術」。どうやって解決するのかのソリューションを肉付けしていく。こういった体系で事業をしっかりと固めていく。

ざっと話しましたが、事業企画の際に抜けがちなのが一番はじめの国語の授業なんですね。“不”が何か不明確なままアプローチしてしまっている場合がけっこう多いんですよ。それだと事業としては成り立ちづらくなる。いきなり市場規模などの算数の話から入ってしまうのは、事業の組み立てとしてはかなり危険です。 

新規事業のタネはお客さんにアリ!

-社内から新規事業が生まれやすくするためには、どのような工夫が必要になるのでしょうか?

お客さんのことを大事に思っていれば何かしら新しい事業のアイデアは出てくると思うんですよね。ここが実際にはあまりやれていない。なので、まずはこの向き合い方を会社として作っていく。ただ、目の前のお客さんの話だけを聞いていると「改善」 レベルだけにとどまってしまいがちです。目の前のお客さんももちろんですが、幅広いお客さんの声に耳を傾けることが大事です。

合理性や効率って、新規事業とは真逆なんですね。余計なことや無駄なことから新規事業が生まれることも多いです。新規事業をボトムアップで生み出していくためには、(普段は業績や業務効率を求められるマネージャ層にとっては難しいことだと思いますが)非合理的なことにも片目を瞑ることがマネジメント層には求められます。

あとはここにどういった「仕組み」を入れるのか。お客さんと会う時間を増やすのもひとつですし、それを行った上で社内の提案制度を作るのもひとつ。何の土壌もないのに仕組みだけ入れてもあまり効果的ではありません。まずはお客さんの声をしっかりと聞くところから。ここをきちんと作らずにとりあえず何かしら仕組みを入れようというケースが多いです。

-最後に、企業の新規事業に関わる立場として大切にされていることは何ですか?

必要以上に介入しないというところは気をつけています。何よりも事業を立案し、推進していく当人の思いが一番大事。その人が本気でやりたいことが一番うまくいきやすい。その人が大事にしているものやこだわりたいものをいち早く把握して、その上で会社の状況・特性・方針と整合性を取れるようなアドバイスをさせていただく。いわゆる「コンサルタント」とはちょっと違う、事業の主体側に半歩突っ込んだ「インキュベーター」としての立ち位置が自分にはぴったりきていますね。

(編集後記)

スタートアップの新規事業と既存事業を持つ企業の新規事業はかなり事情が違う。自由度はあるがアセットがないスタートアップに対し、もう一方は既存事業の強みはあるものの、そのアセットや企業の慣習、利益の追求に縛られ新規事業に大切な自由度が持てない。両者共に難易度は高いに違いないが、後者の場合は話が進まずにスタートラインにすら立てない、というところも多いのではないだろうか。そんな中、今回伺った3つのポイントは組織内で話を進めていくにあたり必須のポイント。特に「国語」の話は、スタートアップの新規事業にもよく当てはまる話ではないだろうか。

※取材協力
ビジネスエアポート品川
東急不動産が提案する会員制サテライトオフィス
https://business-airport.net/shop/shinagawa

従事した新規事業は7年で1,500件超!事業プランを実商売へ導きます

1988年、(株)リクルートに入社。7年に渡り新規事業開発室のマネージャとして、1,500件以上の新規事業案件に携わり、数多くの社内起業や、起業促進のための社内制度の設計・運用を経験。2000年、(株)オールアバウトを起業し、10年に渡り事業責任者を務める(2005年JASDAQ上場)。2010年に独立。様々な業種の企業と契約し、新規事業の企画・企業内起業活性化のための制度設計・社員教育に従事。著書に『新規事業ワークブック』(総合法令出版)、『はじめての社内起業 「考え方・動き方・通し方」実践ノウハウ』(自由国民社)がある。

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