アプリ黎明期に500超のアプリを手がけた仕掛け人が語る、新たなスタンダードを作るフィクションの描き方

新城 健一(株式会社ホオバル 取締役)

2015/04/22

-これまでの経歴をお伺いしたいです。

僕は今まで就職したことがないんです。オールアバウトの立ち上げから上場まで関わらせていただいた際も、社員ではなく、外部のプロデューサーとして契約していました。それまではライターとしてゲームの攻略本やノベライズ、世界観の設定資料集などを執筆し、初代プレイステーション第一作目のゲームから40冊以上上梓しました。当時は、初版3万部で売れれば増刷り、という時代だったので、トータルで120万部以上の販売部数となりました。

平行してコンサルティングの案件もいただいていました。「新しいプロダクトが世の中に出た時に、人々の生活がどう変わるか」という、今は実現していないフィクションを描く、という仕事でした。コンサルティングチームの一員としてアサインしていただき、大手のメーカーさんの新規プロダクト開発などの案件に関わらせていただいていました。

拙著(「価値」が伝わるしくみのつくり方)でも書きましたが、フィクションというのは、時間軸で3つあると考えています。1つ目は、サイエンスフィクション。すごく遠い未来の話、論理的にはそうなるかもというフィクションです。2つ目は、テクノロジーフィクション。たぶん5年~10年後に市場に出てくるであろう、現在研究レベルでやっているようなテクノロジーのフィクション。3つ目は、ユーズドテクノロジーフィクション。すでに市場に投入されているけれど、まだそういう使われ方をしていない、という使い方のフィクション。

当時のコンサルティングのお仕事の中では、このテクノロジーフィクションとユーズドテクノロジーフィクションを描くところを、担当していました。僕は、社会の中で価値を認められていないけれども、今後伸びるであろうとポテンシャルを感じるジャンルがすごく好きです。ゲームに関わったときもそうでしたし、その次のオールアバウトもそうでした。インターネットを通したコミュニケーションに興味があったタイミングでした。その次にアプリヤという会社を立ち上げた時も、次はスマートフォンが面白いなと思っていました。

-めまぐるしい変化ですね。

アプリヤではCOOとして動いていたので、会社全般をマネージメントすることをやっていました。ライターからオールバウトのプロデューサー、プレイヤーからマネージメント、書く人から事業を作ってく人に変わっていったので、外から見るとめまぐるしい変化にうつるかもしれませんが、自分としてはあまり変わっている気がしていません。フィクションを描く、という観点でみると、書いていたときも、新しいサービスを作る今の仕事も、同じだと思うんです。世界観を作るという事は、価値基準をつくることです。その世界で大切にしようとする価値を、どのように伝えることができるのか。そこを考える仕事だと思っています。今ないものがあるとして、それに触れると人の生活はどう変わっていくのか、こういう風に変わるだろうなとか、こういう風に変わる世界を作っていきたいなとか。そういうフィクションを描く。そして、想い描いたフィクションを、フィクションのまま文章としてアウトプットするのがライターでした。今の仕事は、フィクションを現実のかたちにアウトプットする。フィクションをノンフィクションにするのが事業だと認識しています。ですので、本質的には変わっていない気がします。

目からうまくなっていき、手がそのうちついてくる

-本質は変わっていないとのことですが、やはりポジションの変化はあります。スムーズに対応できたのですか?

いえ、本当に、もがきましたよ、変化のたびに。でも成長は階段的なものだと思っています。右肩上がりの直線的な成長は絶対できなくって、つらいんだけど頑張ってると、突然スパッと次の段階にいけるみたいなものがあるなと思うんです。その体験の原点となるのが学生時代です。子供の頃から漫画家になりたかったので、ずっと絵を描いていました。そこで実感したことなんですが、うまくなる時は目が先に成長して、手が追いついてくるんです。

-目が先に成長して、手が追いついてくる?

学校の授業などで何年もデッサンをし続けていると、ある時ふと自分の絵がへたくそに見え始める時期があるんです。そうすると人の絵の上手なところとか見えるようになってきて、とても辛くなります。少し前まで、見えていなかった自分のアラが見えてくるんです。これは、目が先に成長しているんですね。自己嫌悪ですごくつらいんですけど、めげずにずっと描き続けていくと、ある時手が目のレベルに追いついてくるんです。

目で感じる違和感を手で追いつくようにするという感覚は絵だけではなくて、自分自身やサービス・事業についても共通していると思っています。うぬぼれる時期があって、目が先に成長して落ち込む時期があって、手が追いついて次の段階に進める。するとまた目が先に成長して、理想に近づけるためアウトプットを作り続ける。これを、しつこく、くり返す。どこまでやれているかわからないけれど、そう思って頑張ってます。

-なるほど目と手のお話すごくわかりやすかったです。具体的にアプリ黎明期にどのように目と手を動かされていたのですか?

アプリヤを立ち上げた2008年の頃、今と違ってアプリが全然売れなかったんですよ。無料のものしかダウンロードされない。まだアプリ内課金の仕組みもなかった頃で、100円で売り切りみたいなものしかありませんでした。アプリヤは、開発のリソースを社内に一切持たないチームだったので、開発会社や個人の開発者とアライアンスを組んで、アプリをプロデュースし販売しました。月に10本ぐらいのハイペースでリリースしていましたが、目標の10分の1程度しか売り上げられないという現実が見えてきました。そこで、開発コスト据え置きで月に100本作れば今の10倍になるので売上達成する、という話になりました。その実現のためには、考え方を根本から変える必要がありました。そこで、アライアンスパートナーを、開発者=プログラムが出来る人、という状況から、プログラムがわからない人に広げようと考えました。アプリを作るということを、自己表現のひとつと考えたのです。すると、絵や文章など、自己表現をする人たちを巻き込むための仕組みが見えてきました。テンプレートとなるプログラムを用意して、絵や文章などのコンテンツをウェブからアップロードすれば、自動的にアプリが出来上がるという仕組みを作りました。これが海外含めて反応が良かったので、さらにコンテンツをもっていない人でもアイディアさえあればアプリができるように、写真サイトと連動してコンテンツも用意しました。これでアイディアさえあれば、誰でもアプリを出せるようになり、月に100本以上のアプリを作ることができるようになりました。瞬く間に400本以上のアプリを市場に投入することができるようになり、その中からヒット作も生まれました。その他にも電子書籍のプラットフォームやその他もろもろ合わせると500本くらいアプリを出しました。見えない課題が見えるようになり、解決のための方法を考えて、次の段階に行く。目と手の使い方を実感した時でもありました。

一見つながらない物事同士を、抽象度をあげて共通点を見つける

-ポテンシャルを感じるものの見つけ方はありますか?

社会が未だ評価していないものに首をつっこむ、という姿勢が大切な気がします。ガートナーが出してる先端技術の社会への適応度を5段階で表すテクノロジーのハイプ・サイクルというものがありますが、この初期段階、熱狂の少し手前で動いていることが多い気がします。なんでもやればいいとは思ってないので、その中でも自分の人生において価値を産むんじゃないかと感じるところに飛び込んでいます。一見つながらない物事同士を、抽象度をあげていったときに共通点が見つかる。その視点を見つけることがすごく好きです。新しいものを生み出すことも、僕の中ではゼロからなにかを作っているのではなく、新しいむすびつきの視座を発見しているのだろうなと思うんです。だから食べるということスマートデバイスを結びつけた時にどういう価値が生まれるのか、とか。じゃあ健康が入ってきたらどうなるの、とか。教育はどうか、とか。組み合わせや軸をどこにするか、そのようなことを考えています。

-新しいものを作る上で考えておかなければならないことはありますか?

価値をどう伝えるか、ということだと思います。最初に、どういう世界を作りたいのか、ということろを考えないといけない。世界を描くということか、価値基準を明確にすることです。そして、理屈で考えた価値を、どのような形で表現すれば伝わるのかを考える必要があります。送り手の理屈だけで伝えようとしても、うまくきません。受け手は、新しい世界への期待感を感覚で判断することが多いからです。この送り手の理屈と受け手の感覚をどう結びつけるか、どう描いていくのか、ということが大切です。

(編集後記)

新規事業、サービスを作る際の事業構想をフィクションとして描くという表現で語る新城氏はユニークと感じた。しかし言われてみれば納得で、フィクションがどれだけ精緻に描かれているかで、その後の実行フェイズが大きく変わる。新しく作る事業やサービスが世界にどう受け入れられ、溶け込んでいくのか、その事業計画はフィクションに他ならない。目と手の話もシンプルだがとても重要。事業やサービスを創造するとき、課題やニーズを見つけて解決に向けて策を実行する。言われてみればその通り、これも相手にわかるように伝えるという新城氏のプロの片鱗ではないだろうか。

※取材協力
ビジネスエアポート丸の内
東急不動産が提案する会員制サテライトオフィス
https://business-airport.net/shop/marunouchi

リリースアプリ500超!未知の付加価値をスマートデバイスで提案

生活情報サイト「All About」起ち上げからナスダック上場までプロデューサーとして参画。ソフトバンク子会社APPLIYA(株)のCOOを務め、500タイトル以上のアプリをリリース。日経BP社のスマートフォンカンファレンスのプログラム策定委員など、スマホ市場活性イベントを多数開催。(株)ホオバルにて、健康・食・育児・教育など、サービス構築コンサルテーションを実施。プロジェクト規模に応じ上場企業~小規模事業者まで幅広く対応。

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