オウンドメディア編集のプロに聞く、失敗しないコンテンツ・マーケティングのはじめ方

鈴木 健介(合同会社GX 代表取締役)

2015/12/02

コンテンツ・マーケティングの一環として、オウンドメディアを立ち上げる企業が増えている。だが、運用に長けた経験者は少ない。過去にITエンジニア向けオウンドメディアを立ち上げ、現在はフリーランス編集者として活動するプロが語る、外部プロ活用のメリット。そしてこれからのオウンドメディアが目指すべきものとは?

主目的はユーザーとのコミュニケーション。しかし様々な副次効果が生まれることも

-プロとしてのお仕事を教えてください

現在はフリーランスのメディアプロデューサー・編集者として活動しています。企業のコンテンツ・マーケティング担当者さんと一緒にオウンドメディアの全体戦略を考え、KPI&ターゲット設定、編集体制の構築、コンテンツ制作のガイドライン制定、社内外の編集者およびライターの開拓~トレーニングまで、関わり方は多岐に渡ります。

私のキャリアのスタートはWEB制作会社です。クリエイターとしてデザインやコーディングを担当したのち、ディレクターの道へと進みました。次にWEBメディアの価値を確かめたいと思い、生活総合情報サイトAll About(オールアバウト)で、メディア編集や広告記事の制作を担当しました。オールアバウトでは100社以上のクライアントのプロモーションを担当させてもらったのですが、いつしか特定の1企業でPR活動にどっぷり関わりたいと思い、国内最大手のデータセンター事業会社に転職。広報宣伝の部署でPRプランナー兼WEB担当者となりました。

プレスリリースの作成や、コーポレートサイトのリニューアル、LPO、SEO、SEM、SNSマーケティングといった一通りの「WEB担業務」を経験する中で、新たな形でユーザーと対話するコミュニケーション施策の必要性を感じ、オウンドメディアの企画・設立を行いました。

その時に立ち上げたオウンドメディアは、読者ターゲットを「ITエンジニア」に絞ったミニメディアだったのですが、ローンチから約1年で月間20万PVを得られるまでになり、業界内ではそこそこ有名なメディアに育てることができました。

-過去立ち上げたオウンドメディアについて教えて下さい

前述のITエンジニア向けオウンドメディアでは、コーポレートサイトの中では表現しきれない、技術系ノウハウや、おもしろネタ、イベントレポート等を、少し遊び心を交えてユーザーに提供することで、ファンの育成、企業ブランド価値の向上を目指しました。

ライターは基本的に社内のエンジニア系スタッフたち。ほとんどが執筆経験のないメンバーでしたが、日々の業務を通じて得ている「ナレッジ」が非常にユニークで面白かったので、私はそれらをオウンドメディア用の構成案におとしこみ、あがってきた文章を整えて、読者のニーズに合いそうなタイトルをつけて、配信するのが主な役割でした。

−効果はどうでしたか?

非常に大きかったです。主目的である「ファンの増加」は、Facebook、Twitter、はてなブックマークといったSNSのエンゲージメント数を見ると明らかでした。売上アップや、資料請求といった直接的なコンバージョンは、当初はほとんど期待していなかったのですが、新規のインバウンドにつながる事例も生まれましたし、既存顧客が読者になり、新たな取引のトリガーとなることもありました。採用活動にプラスとなる効果もありましたし、想定外の様々な副次効果がありました。

また、オウンドメディアを設立する以前は、自社サービスのPRをするために、外部のペイドメディアにタイアップ広告をよく出稿していましたが、ある程度のことは、オウンドメディア上でユーザーにダイレクトに伝えられるようになりました。その結果、タイアップに費やしていた予算を新たなPR施策に投じられるようにもなりました。

オウンドメディアの価値は、決してアクセス数だけでは測れない……とは言いながら、社会的、あるいは業界的な影響力を、数字で示すことの重要性も実感しました。前述のオウンドメディアの場合、月間10万PVを超えた頃を境に、社内でもマーケティング施策として一目置かれはじめ、「それくらい影響力があるのなら」と、自発的に記事を書いてくれる協力者が増えていきました。

ファンを増やし、長く愛されるメディアを作るポイントとは

−今はコンテンツ・マーケティング / オウンドメディアブームのようになっていますね

バズワード的に流行っているのは間違いないと思います。ただ、実際の現場ではオウンドメディア構築に関心を示しているものの、ローンチにこぎつけ、運営を回していける人材が不足している状況が増えているのかなと感じています。特に編集業務に携わった経験のある人が社内におらず、どのようにコンテンツをユーザーに届け続けるか、といったところで行き詰っているケースが多いようです。

−その場合、陥りやすいポイントはありますか?

コンテンツ・マーケティングの目的・役割が曖昧なまま、なんとなく推進してしまい、「あれ?この施策って何のためにやっているんだっけ?」と担当者が疲弊してしまうことでしょうか。

そもそも、短期的なコンバージョンを狙った顕在顧客向けの広告的な施策としての色合いが強いのか、あるいは中長期的なブランディングを狙った潜在顧客向けの広報・CSR的な色合いが強いのか、といったところは、明確にしておくことが大事です。コンバージョン目的なら、目標売上高や資料請求数から逆算した、攻めのKPIを設定する必要がありますし。ブランディング目的なら、傾聴姿勢を取り、ユーザー・コミュニケーションを深め、定量的なKPIだけでなく、定性的な価値評価基準を定める必要があり、それぞれ手法が異なるのです。

「コンテンツ・マーケティング」といえば「オウンドメディア」、「オウンドメディア」といえば「ブログサイト」の立ち上げ……というイメージが先行している感もありますが、視野を広く持てば、リアルイベントを開催することもひとつのコンテンツですし、動画やSNS、コーポレートサイトのおしらせ枠、メルマガ、商品紹介ページのスペック情報欄もコンテンツとなり得ます。限られた予算・スタッフの中で、自社にとって、ユーザーと的確にコミュニケーションするために最適な手法は何か?といった観点で、取り組んでいただければと思います。

−コンテンツ・マーケティングを実施する上で大事にしている考えはありますか?

私はLTV(ライフタイムバリュー = 顧客生涯価値)※ 向上に繋がるコンテンツ制作を重視しています。コンテンツがいかにユーザーにベネフィットを与えたか。有意義な時間を提供できたか。その経験の積み重ねが、結局はファンを増やし、愛されるメディアを作る礎になると考えています。

今のWEBメディアは、「ロボット検索」中心主義といいますか、SEOで上位に来るように、キーワードを散りばめて、コンテンツ企画・制作するのが主流となっていますよね。しかし実際に検索結果の上位ページを見てみたら、期待外れの内容だった……という経験をしたことがある人は多いのではないでしょうか。私はそうした世界は誰も幸せにならないと思うので、きちんとニーズに合った、良質なコンテンツを配信するメディアが増えて欲しいと思いますし、そういうメディアのお手伝いをしたいと考えています。

「検索する」という行為の概念も、変わりつつありますよね。これまでは、ブラウザの検索窓にキーワードを打ちこみ、ロボット検索のアルゴリズムに則った上位表示コンテンツが勝ち組となる世の中でした。しかし最近は、スマートフォンに搭載された人工知能アプリに、たとえば「○○駅で女性に人気のお店はどこ?」といった日常会話に近い検索手法が一般化しつつあります。そうすると、結局生き残るのは良質なコンテンツになると思います。そんな未来が近づいてきているのですから、今のうちから良質なコンテンツを制作するノウハウを、自社に溜めておいた方が良いと思うのです。

※LTV = 顧客が現在から将来において企業にもたらすであろう利益から割り出される現在価値のこと

—外部プロにオウンドメディア運営を頼むメリットはありますか?

客観的な目線が入ることですね。企業の担当者の方は、社内に世の中の役に立つ知見や面白いネタが実はたくさんあるのに、その価値に気付いていない…ということが多いです。例えば商品化に至らなかったボツ製品の秘話や、自社の創業ストーリー、広報担当者が日々チェックしているニュース源のリスト…etc。外部の人にとっては興味津々の内容なのに、中にいると「そんな話が面白いはずがない」と思われている事が多い。勿体無いですよね。また、競合他社の状況や、業界における自社評価なども、外部の目だから分かることがあります。

コンテンツ・マーケティングやオウンドメディア運営は、まだ歴史が浅く、確実な勝利の方程式や正解が確立していません。専任ではなく、兼務で担当している方も多く、社内にノウハウを聞ける相手がいないことの方が多い。大きな予算があれば、編集プロダクションに全て丸投げする方法が楽ではありますが、そうでない場合、あるいは将来的に自立型の運営体制を確立していきたい企業は、メディアを運営しながら社内編集者・ライターを育成するプロを活用してみていただければと思います。

ファンを増やし、長く愛されるメディア、コンテンツを作るプロデューサー

1977年大阪生まれ。少年時代をロンドン・NYですごす。2001年関西大学商学部卒。神戸のWEB制作会社にクリエイターとして入社。2006年総合情報WEBメディアに入社、広告ディレクターを務める。2010年IT系事業会社にPR職として入社。オウンドメディアを企画・運営。2015年合同会社GXを設立。フリーランスのメディアプロデューサー・編集者としてコンテンツ・マーケティング支援を行っている。

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