ファイナンスのプロが考える、成功の秘訣 ~大企業のM&A支援から日本で3番目のSNS立ち上げまで~

保田 隆明(昭和女子大学 准教授)

2014/08/25

キャリアのスタートはリーマン・ブラザーズ証券、UBS証券といった金融業界でした。投資銀行業務といって、M&Aや会社の資金調達のアドバイス業務をしていました。ただ、当時がベンチャーブームというのもありましたが、いわゆる「大企業病」と言われるように、仕事をしながらも大企業が世の中を大きく変革していくイメージがあまり湧かなくなったんですね。次第にベンチャーのようなスピード感、規模感が世の中にインパクトを与えていくんじゃないかと考えるようになりました。それで会社を辞めて実際に自分で起業したんです。

 

日本で3番目のSNSを作った

- かなり大きな転換ですね。

そうですね(笑)。タイミングもあったと思いますね。ちょうど2004年です。その1年前にアメリカで最初のSNSが生まれているんです。フレンドスターですね。それを見て、これはすごいぞと思って実際に「トモモト」というSNSを立ち上げました。悔しい話なのですが、トモモトをローンチする約3週間前にmixiとGREEがそれぞれSNSを発表したんですね。Facebookもこの年に生まれたサービスです。フレンドスターにインスパイアされる形で次々とSNSが立ち上がった時期だったので、タイミング的にかぶるのはまあ必然だったのかなと。

mixiやGREEが競合なわけです。なかなか厳しいところがあったのですが、ちょうどその頃知り合ったのがネットエイジの方々。会社をネットエイジに引き取ってもらえることになりました。サービスも継続していいと。その代わり、ちょうど「ネットエイジキャピタル」というベンチャーキャピタルファンドを立ち上げようとしていたので、そこにもジョインするというのが条件でした。元々のバックグラウンドが金融なのと、自身でもネットベンチャーを立ち上げたので、ITやネット向けのベンチャーキャピタルファンドの組成というのは、何かしら貢献できることはあるかなと思ったんです。それでジョインしました。

一方で、ずっと頭のなかでぐるぐる考えていることがありました。「ファイナンシャルリテラシー」という分野です。いわゆる金融や財務に関する知識ですね。これがアメリカのビジネスパーソンと日本のビジネスパーソンではかなり大きな開きがある。大げさですが、この分野の底上げが日本経済の貢献に繋がると思っていました。そこで2006年にネットエイジキャピタルから離れ、ワクワク経済研究所を設立、いろんな企業のコンサルティングをやりつつ、メディアなどを通して財務戦略やファイナンス系の知識を噛み砕きつつ情報発信していく取り組みを行っていました。固い内容を少しでも柔らかくする、シンプルかつちょっとしたエンターテイメント性を盛り込む。ワクワク、という名称にはそういった思いも含まれています。証券会社にいた頃に比べると、大企業からベンチャー企業、ベンチャー企業から一般消費者へとどんどんレイヤーが移り変わっていってはいますが、軸としては一貫して財務・ファイナンス系の知識になりますね。

 

自身の経験だけでは足りない

そういった取り組みを行っていたのですがふと立ち止まって考えてみると、自身の知識って10年や15年くらいのものなんですね。累計20社ほど社外役員としていろんな状況を見たりアドバイスをしたりしていましたが、自身の実務経験から提供できるものって、本当にクライアントが求めているアドバイザリーの役目をどこまで満たせているのだろうかと少し立ち止まりました。そこで体系的、総合的にファイナンスを学び直そうと考え、2008年から早稲田のファイナンス研究科という大学院に通うことにしました。

- いまは大学の准教授をされていますが、大学院に通い始めたのが大きかったのでしょうか?

そうですね。そこで学んでいるうちに研究をする、大学で教える、っていうのもひとつ魅力的なやり方だなと感じました。研究結果を企業へのコンサルテーションに役立てる。今後の社会の担い手となる学生たちのファイナンシャルリテラシーの底上げも支援できる。じわじわ学生らによる起業なども一般的になってきたタイミングだったので、ニーズもあるなと。2010年頃ですね。そこでちょうど公募で教員を募集していた小樽商科大学の准教授になりました。そちらに4年いまして、いまは昭和女子大学。学生たちに財務や会計やファイナンスを教える傍ら、いままでの取り組みも引き続き行っているという現状です。

 

新規事業に必要なこと

- 大企業からベンチャー企業まで幅広く見られてきた保田さんですが、新規事業の成功に必要な要素は何だとお考えですか?

いま、ベンチャー界隈でいくと空前のスタートアップブームですよね。ただ、短期的な視野のものが多く、うまく続いていくものは一握り。栄枯盛衰激しいのが現状です。その中で個人的には2つの要素が大事だと思っています。ひとつは、経営者がどれだけビジョナリストなのか。どれだけ魅力的で大きな風呂敷を広げられるのか。これをしっかりとメンバーに示せるとメンバーのモチベーションにも繋がりますし、優秀な人材の確保にも繋がります。

もうひとつは資金調達能力。いままでいろんな会社に携わってきましたが、ベンチャー企業の社長の仕事ってお金をどう引っ張ってくるかというところが大きいんですよね。資金が調達できれば、人を雇えますし、技術やサービスを作ることもできる。販促活動もできる。逆に一にも二にもお金がないと始まらない。

- 大企業の場合はどうですか?

大企業は既に自社の大きなアセットがありますよね。新規事業といっても自社のアセットは活用できるので、自社のビジネスモデルの仕組みを徹底的に理解するべきだと思います。大量生産して安価に納められるのか、はたまたその逆なのか、どのタイミングで換金されるのか、どこの数字を上げると売上にダイレクトにつながっていくのか――。

それを理解した上でコストに対してどこまで許容できるかですね。コストを抑えることに目が行けば行くほどに事業やアイデアなどの魅力度合いは下がっていく傾向がある。意識しすぎるほどに行動がちっちゃくなってしまうんですよね。多少の赤字、損失などのリスクは最初から織り込み済みです、という上層部の納得が得られない環境はつらいですね。トップがケツ持ちますよ、くらいのスタンスがないと厳しい。そういう状況が現状ないのであれば、どうやって上層部に腹をくくらせるか、そこはひとつ現場のリーダーにとって思案のしどころだと思います。

 

めまぐるしい変化にどう対応していくか

- 現場のリーダーに求められる素質にはどんなものがあるのでしょうか?

適応力が大事ですね。新規事業は圧倒的にうまくいかない確率のほうが高いんですね。そこでどうやってうまく見切りを付けるのか、状況に応じてどう最善の対応ができるか。当初作ったプランに固執して進めているのであればなかなか厳しいですね。

- いま注目されている領域はありますか?

ポストLINEには興味がありますね。電話に始まり、いつの時代もコミュニケーションツールは求められているわけです。いま、大学生に教えているんですけど、大学1年生の子たちが半分くらいしかFacebookを使っていないんですよ。何を使っているかというと、LINEとTwitter。クローズドと匿名です。あとFacebookは難しい、って言うんですよね。PCの画面だと全然良いんですけど、スマホからだとちょっと機能が多すぎるのかもしれませんね。リアルとウェブの連携なども方向性としてはあると思いますが、ちょうど、検索とBBSくらいだったウェブの黎明期のような、わりとシンプルでワクワクするような世界観に一部揺り戻ってくるのではと考えています。

 

(編集後記)

ファイナンスリテラシーが日本の経済を下支えするという信念を様々な形でアウトプットされ続けている保田氏。その知見も然ることながら、SNSを立ち上げたり大学准教授に転身したりとご自身の行動力もなかなか真似できないもの。最後に言葉で上がってきた事業のリーダーに必要な「適応力」は、保田さんのような実際にやってみる、飛び込むといった行動を伴う必要があると感じました。

お金に強すぎる専門家が資金調達から売却まで最適解をアドバイス

外資系投資銀行勤務経験、および学術研究により、コーポレートファイナンス分野の理解が深い。また、起業経験、ベンチャーキャピタルファンド運用経験から、述べ20社以上のベンチャー企業を中心に社外役員を歴任。経営全般に対するアドバイスも行う。

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