「とことん観察マーケティング」というシンプルな極意 ~携わったプロジェクトはことごとく成功!~

野林 徳行(株式会社レッグス 常務執行役員)

2014/09/10

- 簡単に経歴を教えていただけますか?

リクルートでは求人事業とマーケティングの業務を担当していました。マーケティングの仕事は何かというと、当時のリクルートでいくと雑誌の部数を上げる仕事なんですね。広告宣伝、表紙、販売チャネルなど範囲は様々です。そしてここが私にとってラッキーだったのですが、雑誌もガテン、とらばーゆ、ゼクシィなどターゲットがかなり絞られているものだった。ここでターゲットのニーズを考える視点が徹底的に鍛えられました。リクルートを退社後、ローソンを経て、レッグスにて引き続きいろいろな企業のプロジェクトに携わっています。そして、当時からいまなお「観察」というシンプルかつクリティカルな手法を実践し続けています。

 

現場を見る

リクルートから出向でブックオフに出向していた頃の話です。いまでこそ都内にはいくつものブックオフがありますが、私が出向していた1999年当時は郊外の店舗が中心。都内での店舗展開はかなりのチャレンジであり念願でもありました。都内第一号店が店を構えるのが荻窪。立ち上げに私も関わらせていただいたのですが、そもそもそれまでのブックオフのスキームは家賃の安い郊外に店舗を作って、マチの人たちが車で本を売りに来て、買い物をして帰っていく、という流れだったんですね。でも都内は家賃が高いし、駐車場が作れない。いままでのナレッジが通用しないし、本が集まらなくてビジネスにならないのではないかという懸念があったんですね。

- 東京は難しい、という認識があったわけですね。

そうですね。経営陣も経験がないので不安です。ただ、きちんと調べ尽くしての結論、というわけではありませんでした。そこで何を行ったかというと「現場を見る」です。徹底的に荻窪の街を歩きました。すると大きな家がずらりと並んでいる。高級住宅街が大量の本の在庫に見えるんです。駐車場はないからこれは売りに来てもらうのではなく、こちら側から買い取りに行けば解決する。あとはバンドマンや劇団員も多く住んでいる。お金に困っている人もたくさんいるから、けっこうマニアックな本が集まってきます。当然、別のバンドマンや劇団員がそういった本を求めにやってくる。オフィスも多いので夕方荻窪から家に帰る人が寄る。住んでいる人も多いので、荻窪に帰ってくる人も寄ってくれる。吉祥寺方面や練馬方面からバスの路線がたくさん集まっている。紙袋に本を入れて持ってくることができる・・・などなど。そして、さらなる本の買取は、日経新聞全国版に広告を出して、段ボールに入れて日本中から荻窪の店舗に送ってもらい、郵便為替で返す。これでひとまずは立ち上がることができました。

- これは現場じゃないと得られない情報ですね。

そうなんです。観察しているといろんな気付きがあるわけですね。これでマチの人が本を売りにきてくれて、別のマチの人がその本を買ってくれるという流れがイメージできたんです。そして、店がオープンしてみると今まで1500万円の月間売上がギネスだったのに、初月で4500万円。初日は6000人も来ていただけました。これはいけるということで以降、どんどん都内の店舗や大型店舗を展開に力を入れていくことになります。ある程度は予測できたかもしれない。しかし、観察によって確信を得れましたし、なにより経営陣に納得していただくことができました。

 

カスタマーを見る

次はカスタマーを見てみましょうか。ローソンでベーカリーやデザートに付いているポイントを集めるとお皿がもらえるキャンペーン。実は、景品の形状からデザインまできちっとカスタマーにヒアリングして決めているんですね。今でも続いていてもう8年くらいになるでしょうか。ミッフィー、リラックマで年2回ずつ。これもそれぞれターゲットが異なります。ミッフィーはお母さん向け。子どもの数だけ必要です。料理の見栄えを邪魔しないように柄は控えめ。リラックマは当時はOLがターゲットでした。こちらはいかに「私が欲しい」と思わせるかです。柄もミッフィーに比べると、キャラクター全面押しになっています。

このキャンペーンは大変人気だったのですが、単にポイントを集めてもらって皿をプレゼントしましょう、と新しい柄だけで展開していても効果が低い。カスタマーが欲しがる皿じゃないとダメなんです。同様のキャンペーンで効果が出なかったから「このキャンペーンは効かなかったね」とか、「そろそろ皿は飽きたんじゃないか」とジャッジしてしまうケースがあるのですが、キャンペーンが悪いんじゃなくて、やり方が悪いケースがかなりあります。カスタマーのニーズを聞いても聞かなくても「お皿プレゼントキャンペーン」なのですが、その効果は雲泥の差になりますね。

キャンペーンではアンケートも取ります。私は、代理店さんの作った棒グラフの資料よりもフリーコメント欄から真っ先に読み込みます。2000人アンケート集めても、1800人くらいはフリーコメント欄には「特になし」。でも、一方で特に書かなくてもいいところに200人が書いてたりするんですね。「キイロイトリのお皿はいつ出ますか?」とか。で、その後いろいろ検証は必要ですが、キイロイトリのお皿を出すとヒットしたりするんです。データばかり見ていると、このキイロイトリでのキャンペーンはなかなか発想できない。私はフリーコメントも限りなく“現場”だと思っています。

「20代OL」だと顔は見えない

実はこの「現場を見る」と「カスタマーを見る」というのは誰でもできることなんですよね。見る、聞くだけなんです。どういう人に心が揺れてほしいのか、なぜそれを買うのか、キャンペーンや施策が失敗したら、誰がなぜ欲しくならなかったのか。どうすればなぜ誰は気に入ってくれたのか。大事なのはここですね。ただ、会議をしていても「誰が」「なぜ」は抜けがちです。肌感ではありますが、7割くらいの会議ではそこの視点が抜けていると感じますね。

この「誰が」というのは、顔が思い浮かぶというところまでユーザーの想定をするべきだと思います。例えば20代OLという括りはほとんど意味がない。例えば23歳と27歳だと月に3万円も使うお金が違うんですね。17時に仕事切り上げてライブに出かけちゃうOLなのか、終電続きで疲れているOLなのかで売り出す商品も全然異なる。65歳の男性と55歳の女性を同じシニアとして括るのも間違っている。

たとえば女性の転職という切り口でもう少し詳しく見てみると、20〜30代のOLはざっくり大きく3パターンに分かれます。働き始めた20代前半の人たちと、20代後半で多いスキルアップに意欲のある層、そして家事や育児をこなしながら働きたい層。これが20〜30代のOLなんです。当然ニーズも異なって、雑誌などで心に刺さるタイトルはバラバラ。アルバイトから社員になりたい、スキルアップして給料上げたい、もっと時間を有効活用したい……それぞれのニーズを満たす特集を個別に組んでいく必要があります。こういったカテゴライズは簡単にできるというものではなく、たくさんの生の声やデータを集めて議論に議論を重ねに重ねてようやくできるというところまでたどり着きます。

そしてその共有が大事になります。みんなが同じ顔が浮かぶこと。もしブレストをうまくしたいのであれば、真ん中にターゲットの写真。右側に精神的な条件、左側に物理的な条件の吹き出しをたくさんつけます。「将来が心配」「仕事と趣味を両立したい」「仲間がほしい」・・・「会社から家まで45分」「スクールに使えるお金は月3万円」など吹き出しで書き込んでいく。そこまで摺り合わせ、ブレストを始めてみるとターゲットの顔をブラさずに議論することができます。

- 現場やカスタマーをしっかりと見て進めれば、必ずうまくいくものでしょうか?

基本的には成功へと結びつけることができます。私も「観察」をしっかり行ったもので失敗したプロジェクトはありません。ただ、この現場やカスタマーを見る、というのはそれなりのモチベーションを要するんですね。観察は、「知らねばならない」と思っているとあまり目に飛び込んできません。「知りたい」欲望が何倍もの発見を手助けしてくれます。テーマをもってマチを歩いているとヒントがたくさん飛び込んできます。クライアントや上司に言われたことを鵜呑み、というのも危険です。私自身もクライアントや上司からの依頼に対して「誰かが幸せに」なるのかをとことん確認します。観察には熱意が必要なんです。

 

迷ったらカスタマーに戻れ

モノが売れなくなったり、新規事業を進める際に意見が堂々巡りしてしまう場合があると思います。そういうときはカスタマーを忘れているんですね。なので、カスタマーに立ち戻ってください。観察をして、仮説を立てて、それを何度も繰り返してサービスを練り上げていく。でもやっぱり迷うので、カスタマーや現場に戻る。これの繰り返しです。ここができていればコンサルは要らないはずなんですよね。企業の優先順位のなかで、人材育成やカスタマーを知るということが意外と後回しにされがちです。けれど結局答えを持っているのは現場とカスタマーなんですね。ぜひ、一度しっかりと向き合ってみてください。同じ施策でも、効果が劇的に変わるかもしれませんよ。

 

(編集後記)

野林さんの話はシンプルなのにものすごく奥深い。「ユーザー本位」や「カスタマー至上主義」など似たような言葉はよく耳にしますが、なかなか立ち止まってしっかりと考える時間はみんな持てていないのではないでしょう。ただ、ここをやり切ることは事業を成功に導くこととかなり近い。言われてみれば当たり前のことをちゃんとやることの難しさ、そして大事さを強く感じました。

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